今週のお題「おじいちゃん・おばあちゃん」
「お父さんが好きだったわけじゃないの。おじいちゃんが好きだったから結婚したのよ」
何を訳のわからんことを言っているのかと思いながら聞いていた。そもそもお父さんに失礼では?そういやこうも言ってたな。
「おじいちゃんがいなければ、結婚しなかった」
母にそこまで言わせたおじいちゃん。一回会って見たかった。父は母の狼藉に困ったように笑っていたけど、次男の自分の名前に、萎縮することのないようにと「一郎」の二文字を入れてくれたことに死ぬまで感謝していた。
母は山本學(「白い巨塔」の里見先生はこの人しかいないと今でも思っている)のような、優しげでハンサムな人がタイプだったのに、仏壇に飾られた祖父の写真は気のいい親方、といった感じで全然違った。しかし、真逆のタイプを持つ女子を惹き付ける何かがあったわけで、どうもそれは「優しさ」だったらしい。とにかく気が利いて、面倒身がよく、人の気をそらさない人だったようだ。
「家は煙草屋をやってたんだけど、ある時、向かいのカフェーの若い女給が店番しててさ、もうなんだと思ったわよ。格さんにはよくしてもらってるからお礼にって。
お父さんが結婚してるって知らなかったんだね。娘ですって言ったら泣かれちゃってさ。でもお父さんはお母さん一筋だったのよ。だから仕方なかったのよ」
今は法事でしか会うことのできない、御年90歳の叔母が昨日のことのように語る。しかもちょっと怒ってる。そうそう忘れてたよ。モテるけど真面目な人って、奥さん一筋だったりするよね。
いつもおばあちゃんの家に行き、仏壇にお参りする度に、
「お父さんが生きてたら、きっとものすごく可愛がってくれた」
と仮定法で語られていた格さんことおじいちゃん。
もう一回言う。一度会って、そのモテの秘密を解明したかった。