さてとまる

日々を綴る

尼削ぎとドーナツ

昨日、会社の帰りに電車に乗っていたところ、目の前にベビーカーが止まった。ふと顔を上げると、尼削ぎの稚児と目が合った。鼻がちょっと上を向いていていとおかし、である。そのままじっと見つめ続けられてしまったが、いちおう子を育てた母でもあるので、『ただいま光の速さで絶賛情報処理中』と思って静かに観察していた。じっとこっちを見てるけど、目が無表情なのは見たこともない知らないものだから。もちろんかわいいんだが、ひと様のお子さんをむやみやたらとかーわいい、とか言っては迷惑よね、と思う。

そのうち情報処理が終了したのか、また違う方向をじっと見ていた。よくよく考えれば、生まれて、這って、歩いてお話ができるまで凡そ一年。人類の進化をたった一年でやるのだから、赤ちゃんは忙しいのだ。かわいいだけの存在ではないのである。

とは言うものの久々にいとおかし、な気持ちになり、「さつまいもド」を食べるため、ミスドに入ると、今度は仲良くお話し中の親娘がいた。小柄なお母さんと中学生くらいのお嬢さん。お嬢さんがお母さんに一生懸命話しかけ、なんだかお母さんも懸命に相づちを打っている。そしてアイスコーヒーと「みついもド」を頼んで隣の席に座って気づいた。

お母さんのドーナツの方がかわいい。

白いチョコレートがかかっていて、その上にカラースプレーがふってある。翻ってお嬢さんの方を見ると、なんだか地味な感じのドーナツだった。地味な方が現役なのである。

私も昔、それでも30代の頭くらいの頃だったか、横浜のお土産に赤いくつを型どったチョコレートがあって、それを職場の人に配ったら苦笑された思い出がある。みんなオシャレでちょっとイジワルで、かつ口が肥えている人たちばかりだったので、見た目重視でかわいいだけのチョコレートなんて笑止千万だったに違いない。しかもコワモテでならしていた私が持ってきたのだから、言いたくはないが別の意味で心に残ってしまったかもなー。

まあでもかわいいが足りないと、どこかで補いたくなるものですよ。岡崎京子先生も言っていた。女の子はみんなプリンセスなのよ。

プリンセスというにはかなりトウが立ってしまい、もはや心持ちとしてはシンデレラのお母さんみたいなんだが、多分ひそかに、自分でもわからない勘違いをこれからもすると思う。かわいいドーナツを食べているおばさんがいたら、それは私だと思ってください。

以上。