母が演歌が好きで、毎週、日曜の夜にはテレビ東京の「演歌の花道」を見ていた。母はしんみり聞いていたけど、私は来宮良子さんの渋いナレーションと、常に漁火の見えるこれまた渋いセットで歌う歌手の方々の歌を聴きながら、なんで着てもらえないセーターとか編んでるのかな、とか思っていた。
そこには、なんていうんだろうな、かわいいあの娘と朝寝をしたい、とか、愛しても愛しても他人の妻だとか、決して長続きはしない、かつ薄幸な感じが花咲いており、そこがなんだろうな、粋というか。私はそういうことを大人が真面目にやっていることが、まだ子供だったのでわからなかったのである。
さて。
昨日ではあるが、島津亜矢さんのライブに行った。一部と二部に分かれていて、一部はポップス、二部は演歌という構成でどちらも素晴らしく、凄まじくレンジの広い表現力と巧さに驚いた。聞けば来年で芸能の世界に入って40年とのこと。50代になってしまったんですけど、とはずかしげにおっしゃっていた。
ポップスの歌手の皆さんが、早ければ30代、そして40代には声帯の衰えから歌い方を変えたりしなければならない中、いや、もうどのような維持の仕方をしているのか。やっぱり民謡から演歌の歌手の方は、多分、頭のてっぺんから足の先まで響くすごく性能のいい楽器なんじゃないかな。全身を使って歌うので、無駄な力を使わず、喉への負担が少ないのではないだろうか。無論、喉のケアもしっかりされているとは思うが。
それで、島津さんの歌唱で、北島三郎さんの「与作」を聞いたのだが、ただの「ヘイヘイホー」の歌ではないことに気づいた。この歌は本当にシンプルな歌なんだが、そこにぎゅっ、と日本人の美意識が詰まっている。朝から晩まで一生懸命に働く。奥さんも気立てが良く、一緒に働く。貧しいけれども美しい。私、この歌、まるでサラリーマンの歌かと思いましたよ。もちろんとてもヒットした歌だし、よく聞いてはいるんだが、そんなふうに感じたのは初めてだった。
いい歌い手さんの歌を聞くと、新しい気付きがある。
そういうことがわかったという貴重な体験でした。
あ、でも島津さんに限らず、演歌の歌手の方の歌は生で聞くとすごいよ。ホールが震える。やっぱりうまいのよね。