さてとまる

日々を綴る

ひなびた場所で

地方の都市に行くと、長いこと手を入れられることなく放置されているような古い建物が町中にちらほら見られ、それがそうなった物語について思いを巡らす。

当事者ではないからかもしれないが、その不完全な感じが、東京の近辺に住んでいるととても贅沢なことのように思える。

便利なところが空いたら、すぐに新しい何かが取って変わる。そこにもとはなにがあったか忘れてしまう。次から次へと上書きされてなんかちょっと息苦しい。

先週末、松本の中心地から外れた、寂れた温泉地に行ってきた。かつては100人の芸者さんが闊歩する華やかな奥座敷だったらしいが、交通機関の廃止により、町も廃れて行ったらしい。

その町の中心に、とても古い旅館をリノベーションした宿がある。ひとつは家族向けでもう一つはブックホテルだ。

今回はそのブックホテルに宿泊した。松本本箱。館内には宿泊施設の他に、多くの本をためし読みできるスペースがある。ためし読みして、買いたくなったら買ってもいい。夜になるとリキュールやノンアルコールのドリンクを楽しみながらの読書もできる。まさに本好きにはたまらない場所だった。

このホテルの他にも、古民家を改造したカフェやベーカリー、小さな共同浴場など町全体を、古い町の良さを生かしつつ、リノベーションする試みがなされている。町と対話しつつというか、ここの魅力とはなんだろう?と深く考察しつつというか。

それは「静けさ」かなあ。例えばカフェにも余計な音がない。店員さんが支度をする音と、お客さんがささやくようにする話し声。お仕着せの音楽もかかっていないし、そんな中で人の心についての本を読む。なんて贅沢なんだろう。

贅沢ついでのプリンやコーヒーもある。建物自体は古びているけど、そんな侘びも寂びもなんだか新しくて心地よい。

キラキラしたリゾートも良いけど、ひなびたところで心の洗濯。も、良いのでは?